「凍みこんにゃく(しみこんにゃく)」は、真冬の20日間田んぼで冷凍・乾燥を繰り返しながら生産される伝統的な保存食で、現在は茨城県だけで生産されている幻の食材。
茨城県常陸太田市天下野町(旧・水府村天下野)の特産品として古くから生産されてきたが、昭和30年代の後半から生産者が激減し、現在は全国でも茨城県北地区で数件の農家でしか生産されていない。
通常のこんにゃくとは異なり、フライや天ぷらなど、工夫次第でさまざまな味わい方が楽しめる食材となっている。
天候に左右されやすく手間隙がかかる生産方法のため、現在は稀少な特産品となっているが、カロリーがゼロに近く繊維質やカルシウムを多く含む「凍みこんにゃく」は、優れた健康食品でもある。また、乾燥状態を保てば、50年以上保存が可能であり、健康食品のみならず保存食としても注目を浴び始めている。
「凍みこんにゃく」は江戸時代から、農閑期の副業として盛んに作られてきた。
水府地区に伝わる「凍みこんにゃく」の由来は、江戸時代に探検家・木村謙次が丹波国よりその生産技術を導入したこととされている。
昭和59(1984)年から凍みこんにゃくづくりに着手した、天下野町にある中嶋商店は、現在では常陸太田市で唯一の凍みこんにゃくの生産者。
生産時期は12月中旬から2月いっぱいで、作業は30㎝から50㎝の高さに敷いた藁の上にハガキ大に切り分けたこんにゃくを丹念に並べ、水をかけることから始まる。
水分を含んだこんにゃくは夜の寒さで一気に凍り付き、翌日、昼間の直射日光を当ててゆっくり解凍させる。
自然解凍されたこんにゃくに再び水をかけて凍らせる。
この作業をおよそ20日間に渡って繰り返すうちに、こんにゃくの水分が抜け、色合いも灰色から白色に変化。最後に仕上げの乾燥を1週間行うとスポンジ状になった凍みこんにゃくができあがる。
乾燥して水分が無くなったこんにゃくは、風に吹かれると飛んでいってしまうほどに軽くなるという。
地面に敷いた藁には、水はけや水持ちが良くなるほか、こんにゃくの水分を保つといった効果もある。凍みこんにゃくは、湿気を避ければ50年以上も保存が可能だという。
最も一般的なの調理法は「煮しめ」で、味や香りがなく新鮮な食感を楽しめる食材であることから、砂糖、酒、しょうゆ、みりんなどで味付をして、家庭の味を楽しむのが一番とのこと。
厳冬期の重労働と生産者の高齢化により、生産農家がなくなっていく一方、中嶋商店は「幼いころのからのご馳走をなくしちゃならん」との想いから50代から「凍みこんにゃく」を始めた。若い人にも食べてほしいとの思いから「凍こんにゃくのフライ・天ぷら」など独自の料理法も開発している。
中嶋商店ホームページ:http://www.ne.jp/asahi/nakajima/shimikon/
手間がかけられた食材のため、昔は冠婚葬祭や田植えのときしか口に入らない高級品だったという。しかし、その生産量は減少する傾向にあり、天候や気候の変化が生産量に大きく左右する。
茨城県常陸太田市観光振興課は、奥久慈特有の自然環境を活かして作る「凍みこんにゃく」が本当に幻となってしまう前に、ぜひ一度ご家庭で調理し、家族みんなで味わってみてほしいとしている。
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