当サイトに何度か登場して頂いている清涼飲料水評論家・清水りょうこさん。
TV番組への出演や書籍の刊行などの活動により、SNSなどでも度々話題になっているが、評論家になったきっかけや普段の活動などについて話をうかがった。
ネットがない時代、見た事のないジュースは全て買い占める日々
ー清涼飲料水評論家になられたきっかけについて教えてください。
清水りょうこさん(以下、清水):「大学生で進路を考えていたとき、雑誌を読むのが好きだったので、出版業界で働きたいという気持ちがありました。
出版業界で働くならば、専門分野を持った方がよいという話を聞いたとき、子供のときから好きだったジュースのことがまず頭に浮かびました。自動販売機があれば必ずチェックしていましたし、旅行に行った際に見たことのない飲み物を見つけるのがとても楽しくて。それで、ジュースの専門家になろうと思ったのが始まりです。
その後、雑誌のライター募集に応募して書かせてもらったのが「スイカソーダ」のコラムでした。それが最初の仕事ですね。
大学卒業後、ティーン誌の編集部で働きながら、こっそりライターの仕事もやっていました。
就職して2年目の89年に『MCシスター』(婦人画報社・現ハースト婦人画報社)で、『ジュースな話』というコラムを書くことになり、そこで『清涼飲料水評論家』を名乗ったのが最初だったと思います。」
高校生の時に雑誌で知って、地サイダーの存在に気づくきっかけとなった「ダイヤレモン」
その後、フリーランスの編集ライターに。『GON!』(ミリオン出版)というB級ニュースマガジンで「日本一まずいジュースを捜せ!」という企画を担当。美味しいジュースとまずいジュースを紹介する読者参加型のコーナーを受け持つことになる。
清水:「1990年代中頃は、今のようにネットで何でも手に入るような時代ではなかったので、商品を用意するのがとても大変でした。
企画があるたびに、都内近郊のデパート、スーパー、コンビニ、自動販売機をまわって、目新しい物は全て買うということをやっていました。
見た事ない物は全て買っておかないと、次のテーマで使用するときにも必ず手に入るわけじゃありませんから。テーマに沿った商品を揃えるのが、本当に大変でしたね。
でも、人気投票では常にベスト3に入っていました。雑誌のテイストが変わるまで、創刊から約5年くらい連載していました。読者からの反応がとても楽しかったです。」
「清涼飲料水評論家として食べていけるのか?」って絶対聞かれます
ーそれからは清涼飲料水評論家としてのお仕事のみをされているのでしょうか?
清水:「『清涼飲料水評論家として食べていけるのか?』って絶対聞かれるのですが、それだけでは無理ですね。
なんとかジュースが飲めるくらいの金額程度です。
ですから、編集やライターとしての仕事やバイトもやっています。
もともと本に関わる仕事をしたいという思いはありますから、どちらも本業というか大切にしています。」
ー清涼飲料水評論家をやっていて変わったエピソードはありますか?
清水:「1999年に東京・青梅に『昭和レトロ商品博物館』という商品パッケージを中心に集めた博物館がオープンしました。そこへライターとして取材に行ったんですが、展示品に古い缶ジュースがあったので、撮影させてもらったんです。だいたい70年代後半から80年代のものが100本近くあったのですが、1本ずつ撮っていたら、館長の横川さんが『そんなものにそんなに興味を持つ人がいるのか』と、すごくびっくりされて。(笑)
ライターとして訪問していたため、清涼飲料水評論家とは名乗っていなかったので、改めて名刺を渡したら、とても興味を持ってくれました。翌年、博物館を改装するときに、清水のコーナーを作ってくれて、『昭和レトロ商品博物館』の『缶長』となりました。「缶の展示の責任者」という意味です。」
清涼飲料水のアピール役になりたい
ー清涼飲料水にどのように関わっていきたいと考えていますか?
清水:「映画評論家がいろいろな映画の魅力を伝えているように、いろんなソフトドリンクの魅力を伝えていければいいなと思っています。
2000年から特に注目している地サイダーについては、アピール役として少しは役にたてているかな。」
「地サイダー」とは、主に全国各地の中小メーカーが地元を中心に販売しているサイダーのこと。近年はインターネットやメティアでの注目度が高まり、地域おこしや地元の名水、農産物とのコラボレーションも増えて一大ブームになっている。
「地サイダー」という言葉を浸透させたのは清水氏であり、各メーカーからの信頼は厚い。
2002年より全国各地を訪れて「地サイダー」を取材。全国に650種類以上ある「地サイダー」を網羅したリストを初掲載した『懐かしの地サイダー』(有峰書店新社)という書籍を刊行している。
清水:「どんな製品も大切に作られているので、その思いも伝えたいと取材しています。ただ、小さなメーカーだと、名前が出たことで対応に追われて業務に支障が出ることもあるし、無理な注文が入ることもあります。
例えば、リターナブル瓶を使用しているメーカーさんは瓶が回収できるエリアだけでしか商売はできない。遠方からの注文には応えられないんです。
そういった事情は、実際に取材してみてわかったこと。そういうことも含めて、どうしたら楽しむことが出来るかも伝えたいと思っています。
地サイダーの楽しみは、なんといっても現地に足を運んで飲むこと。とりあえずお取り寄せで飲んで、気に入ったら行ってみるのもおすすめです。」
ー清涼飲料水評論家としては30年近く活動されていることになりますが、今と昔を比べて何か感じることはございますか?
清水:「面白いものが減ってるんじゃないでしょうか。
昔は、大手以外にも自社の自販機を持っていメーカーも多くて、ユニークな商品が数多くありました。
現在は、合併したり淘汰されたりしてメーカーの数がかなり減っています。その結果、大胆な商品も減った気がします。」
ー同じ肩書きの人は他にもいらっしゃるんでしょうか。
清水:「清涼飲料水評論家と名乗っているのは、多分私だけだと思います。清涼飲料水研究家なら久須美雅士さんがいらっしゃいます。古くからの「飲料趣味仲間」ですけどね。
7月に刊行した『日本懐かしジュース大全』(辰巳出版)で対談をしています。
近年はコンピュータの普及などによって、データの保存が簡単になってきましたが、かつては毎年、たくさんの種類が登場する清涼飲料水の情報って、メーカーもあまり残していなかったんですよ。だから、古い商品の問い合わせをしても残っていないんです。
このままだと、誰かが形にしないと無くなってしまう。文字にしたり本にしたりすることで残していきたいという思いは、常に意識があります。」
清涼飲料水の博物館を作れたら
現在、数千本の清涼飲料水の缶やびんを所有しているという。トランクルームに保管しているというが、個人で所有することよりも歴史を残していくことに関心が高い。
清水:「清涼飲料水の博物館を作りたいという目標はあります。
ソフトドリンクが誕生してから現在までの歴史を見られるような博物館を作りたいですね。
そうすれば、私はコレクションする必要もなくなりますし(笑)。逆に持っている人はそこに寄贈すれば、みんなに見てもらえるんですからね。
子供のころ飲んでいた懐かしいジュースを見ながら、当時の話を、友だちと思い出したり、家族に話せたりしたら楽しいのではないでしょうか。
それにパッケージデザインとしてもすごく魅力的。博物館に展示できたら多くの方が楽しめる施設になるのではないかと思います。中小、大手、関係なく、あらゆるメーカーのものが一同に会したら、世界で唯一の素晴らしいものとなりますよ。」
好きなことは続けた方がいいですよ。ずっと同じテンションでなくてもいいから
ー清涼飲料水評論家という存在を知って、ニッチな分野の評論家という職業を目指そうと考える人もいると思いますが、何かアドバイスはありますか?
清水:「好きなことは続けた方がいいですよ。
評論家なんて誰かが許可するものではないので、名乗ったもん勝ちでしょう。あとは、どれだけ続けるかがカギかな。
ニッチな分野の評論家って、メディアでは昔から結構目にしますが、だいたい、その場限りか、数年で飽きて辞めちゃうことが少なくない。
名乗るのは自由です。ただ、名乗ったからといって「仕事(=稼げること)」にはなりませんから、そこでパカらしくなっちゃんでしょうねぇ。
例えば評論家だけで食べていける人って相当なビッグネームの人だけだと思いますし、小説家でいったらベストセラー作家のようなもの。稼ぎたいのか、極めたいのか、そのあたりが分かれ道でしょうか。もし、好きでやるなら、稼げないからって勝手にダメだと思わない方がいいと思います。
もちろん、誰かに興味を持ってもらわないと意味は無いと思うので、自分なりのスタンスを決めて、発信し続けることは必要でしょう。
どんなことでも、30年やったら何か形になるかもしれませんね。自分でもバカなんじゃないのって思ってますけど。(笑)
もっと要領のいい人はすぐに世にでる人はいるでしょう。でも、好きなことなら、要領が悪くても、途中でお休みしていても、ずっと同じテンションでなくてもいいから、やりたいことは続けた方がいいと思いますよ。」
ー清涼飲料水評論家・清水りょうこさんにとって清涼飲料水とは何でしょうか。
清水:「なくてはならないもの、必要なもの。楽しいときも悲しいときもいつも身近にあるものです。
先日、母の葬儀があって、斎場で出た飲みものの中にびん入りの『リボンオレンジ』(ポッカ・サッポロ)があったんですよ。いま、市販の『リボンオレンジ』って北海道限定なんですが、業務用は東京でもあるなんて知らなかった。母が亡くなって悲しいのに、携帯で写真を撮ったりして(笑)。でも、きっと、これから『リボンオレンジ』を見るたびに、味わうたびに私は母の葬儀を思い出すことになるんだなーって。もちろん、人によっては、そこで出た食べものだったり、音楽だったり、場所だったりといろいろあるんでしょうが、私にとっては清涼飲料水ですね。日常にあるものだから、当たり前すぎてちょっと分からないくらいです。
『清涼飲料水評論家』という肩書きがあることによって、私自身に興味を持ってもらえるのも嬉しいですね。」
プロフィール
1964年東京生まれ。子供の頃からジュース好き。1989年に清涼飲料水評論家としてティーン誌でコラム連載開始。以降、雑誌を中心に清涼飲料水関連の記事を執筆。また、「地サイダー」という言葉を広めたのは同氏で、全国各地のサイダーが注目されるきっかけを作った人物としてメーカーからの信頼も厚く、著書の出版やテレビ出演など幅広く活動している。著書に『なつジュー。20世紀飲料博覽會』(ミリオン出版)、『懐かしの地サイダー』(有峰書店新社)『日本懐かしジュース大全』(辰巳出版)。青梅・昭和レトロ商品博物館缶長。
ブログは「Drink Me!」 http://juice-net.cocolog-nifty.com/
「清水りょうこのアレヤコレ屋」 http://mazuju.jugem.cc/
『日本懐かしジュース大全』(辰巳出版)
2016年7月7日に発行された、清水りょうこの最新作。清涼飲料水の歴史からはじまり、ラムネやサイダー、コーラなど、各ジャンルの懐かしい製品や思い出について言及。日本で最初に作られたコーヒー牛乳や缶コーヒーの話、中小メーカーの「統一商標」についてなど、ここでしか読めない情報もあり。10代から70代までが「懐かしい」と感じる飲みものが満載。ひとりでも、誰かとでも楽しく読める一冊となっている。
発売日/2016年7月7日
出版社/辰巳出版
http://www.tg-net.co.jp/item/4777817326.html?isAZ=true