大流行の「スペシャルティコーヒー」に報道されない惨状…【川野優馬氏】が知る“サスティナブル”の裏側

投稿日:2023/09/01 11:01 更新日:

「スペシャルティコーヒー」を好んで飲む人にとって「農園」というキーワードは馴染み深いもの。

実はこの「農園」に対して、私たちはより一層深い理解が必要な局面にきているようです。

サスティナビリティを重視してきた「スペシャルティコーヒー」がいま向き合うべき問題点を、LIGHT UP COFFEE代表・川野優馬さんが赤裸々に語りました。

LIGHT UP COFFEE代表・川野優馬

※こちらの記事は、川野優馬さんの了承を得て執筆・編集をおこなっております。

■そもそも「スペシャルティコーヒー」って何?

実は、スペシャルティコーヒーの定義は非常に曖昧です。川野さんの説明によれば、以下の要素を備えていることがスペシャリティコーヒーであると言います。

・カップクオリティ(美味しいコーヒー)
・トレーサビリティ(生産過程の追跡が可能)
・サステナビリティ(持続可能性)

そして、スペシャルティコーヒーの「サステナビリティ(持続可能性)」について、川野さんは「生産者がちゃんと続いていけるようなコーヒー。つまり質が高い、美味しいコーヒーを作るからこそ、高い価格で買われて、労力に見合ったお金を得て、より彼らの生産が続いていけること」と説明します。

「ダイレクトトレードって言葉があったりするみたいに直接仕入れたコーヒーって『彼ら(農家側)にとっても意味があるんでしょ?良いんでしょ?』っていう風に、なんとなく生産者にとって良いイメージを持っているかなと思う」と語る川野さん。

「販売単価が上がっている生産者も多いと思う」と前置きしつつも、川野さんは「本当にそれで生産者が“全員”幸せなのかというと、僕はそうじゃないなって思うんですよ」と話します。

川野さんは実際に自身がコーヒー生産者と接した際の経験を通じて、なぜスペシャリティコーヒーによって恩恵を得られていない生産者が存在するのか、その理由を語り始めます。

■スペシャルティコーヒー生産者なのに借金が返せず、農園が潰れる危機…一体何が?

川野さんは1つ目の具体例として、インドネシアのCOE(カップ・オブ・エクセレンス)にて10位以内に入ったスペシャルティコーヒー生産者の現状を口にします。

COE(カップ・オブ・エクセレンス)とは、その年に収穫されたコーヒー豆の品評会。そこで10位以内というと世界に誇れる品質のコーヒー豆であることを意味します。

LIGHT UP COFFEE代表・川野優馬

「スマトラ島の生産者だったんですけど、彼らの農園に行った時に、夜になって農家の方、生産者さんが泣き始めたんですよ」と明かした川野さん。

川野さんが「どうしたんだ?」と慌てて話を聞くと、この生産者の方は「銀行への借金が返せないんだ」と嘆いたそうです。

「美味しさはスペシャルティグレードですよ?」と強調しつつ、生産者さんが借金を返せない理由として「それ(スペシャルティコーヒーの豆)を作っても全然利益が出ない」と打ち明けられたそう。

利益が上がらない原因について、川野さんは「今年は出来が悪い不作の年って時に、周りの農家さんからもチェリーを買い集めないとオーダー量に応えられない。で、そのオーダー量に応えるためにチェリーを買おうとした時に、チェリーの価格がめちゃくちゃ高い年があったりすると、作る分だけ赤字になってしまうような年がある」と、需要と仕入れの難しさを説明します。

「そうなると、その分銀行から借金を借りて、それが何回か続いていくと借金を返せなくなって、担保にしていた農園が、彼らはその時3ヘクタールくらいの土地があと1週間から1ヶ月ぐらいで没収されちゃう。『僕らの農園がなくなっちゃうんだよ』みたいなことを話していて」と、川野さんは生産者のもとに実際に訪れたからこそわかる“リアル”を明かします。

「スペシャルティコーヒー、みんながみんな良いもんだと思ってたけど、実際蓋を開けてみると…」と語り、「一概にスペシャルティだからといってサステナブルかどうかっていうのは、またちょっと別個の問題なのかなとも思ったりしたんですよ」と苦言を呈しました。

■原材料の価格高騰はコスパ悪化の一因、川野優馬が本当に評価したい要素とは?

ここまでの話に加えて、川野さんは自身が運営しているインドネシア・バリ島のコーヒー農園・精製所を具体例として挙げ、コーヒーチェリーの価格高騰が要因で豆の価格も上がってしまい、「コスパ」という観点でも厳しいと言います。

「インドネシアのコーヒーって毎年価格が上がり続けているんですね。特に、コーヒーチェリーの価格が上がっているんです」と話します。

LIGHT UP COFFEE代表・川野優馬

「色んな精製所の人が色んな農家さんからチェリーを買い集めようとするんで、競争が起きるんです。『うちはいくら出すよ』とか『じゃあもっと出すよ』というのが毎年あって、どんどん値段が上がっていって」と、チェリーが高騰する原因を明かします。

加えて、「2021年かな、初めてカップ・オブ・エクセレンスっていうアジア初の国際品評会がインドネシアで開催されて。その国のその年の美味いコーヒー決定戦みたいな感じで、1位の生産者のロットには高い価格がついて、世界同時オークションで名前と共に価格もついていくっていう素晴らしい取り組みなんですが、それのおかげもあってチェリーの価格がすごい上がった」と、さらなる高騰の理由を話します。

具体的に「最初、2018年に僕らが精製所始めた時に1kg70円だったコーヒーチェリーが、今年2023年、5年経って185円ぐらいになったんですね。まぁ、約3倍近くまでコーヒーチェリーの価格が上がっていって」と価格高騰の状況を明かすと、「そのぐらいの価格になっていくと、日本に持ってきて日本で売ろうとすると、1kgあたり2000円超えのケニアよりももっと高いぐらいの値段になっちゃうんですよ」と悩ましい実態に言及。

さらに、川野さんは「生産国の経済状況の違い」についても指摘します。

「例えばエチオピアの農村部なんか月給5000円とか6000円で人が動いてくれる。1日150円の日給でコーヒー精製で働いてくれるなっていうのと、まあ経済がどんどん発展してきてるインドネシア、ベトナム、タイ、ブラジルもそうだと思うんですけど、そこの人件費と比べるとどうしてもコストはかかりますよね。そうすると、出来上がったコーヒーのコスパみたいな言葉を持ち出してしまうと、なんか難しいところがあるなって思うんですよ」と話します。

「ということで、僕はスペシャルティコーヒーと言ってもサステナブルかどうかは生産者によって違うし、もっと農家さんの取り組みとか努力っていうのをカップクオリティ、まあフレーバーの豊かさと価格のバランス、つまりコスパ以外のところでその価値をつけて売らないと面白くないと思い始めてきています」と述べました。

■川野優馬、「サステナブル」に貢献するために2つの“やりたいこと”を宣言

この現状を踏まえ、川野さんは今後取り組んでいきたいことが2つあると宣言します。

1つ目として「八百屋さんみたいにコーヒー豆を売りたい」と明かすと、この例えを出した理由を「例えば八百屋さんに行って、人参があったととして、その人参がスーパーの人参よりも100円高かったとするじゃないですか。だけど、なんか八百屋さんに行って「これは仲の良い人がこんな風に作っていて、ちょっと細いんだけど美味いんだよ』みたいな説明を受けると、それが100円高かろうが気にしない人も多いと思うし、(価格設定は)そういうもんだなと納得して買う人が多いと思うんです」と話します。

LIGHT UP COFFEE代表・川野優馬

「ストーリーっていうと薄っぺらくなっちゃうんですけど、その価値ってやっぱり農作物である以上必須だと思っている」と述べました。

この1つ目のやりたいことを踏まえ、2つ目のやりたいこととして「スペシャルティコーヒー生産者は本当にハッピーなのか?ということを、もっと蓋を開けて明るくみんなに伝えたい、わかるように言語化や映像化したい」と明かした川野さん。

具体的な取り組みとしては生産者に会いに行った際にインタビューを実施し、スペシャルティコーヒーを始めた背景、理由、変化、良くなったことと悪くなったことなどを聞いていくことを通して、「綺麗なストーリー」だけでなく「リアルなストーリー」を実感し、伝えて行きたいと思っているそうです。

そして、川野さんは「言葉選ぶんですけど」と前置きしながら、「そもそもコーヒー生産自体が奴隷制度の中で生まれて、消費国と生産国で経済状況が異なる中、ある意味搾取的な構造で生まれたものから、生産者ごとの個性を理解した上で彼らの仕事に敬意を払い、美味しかっただけ高い値段を払おうっていう流れがスペシャルティコーヒーだと思っていて」と、コーヒーの歴史に触れた後、次のような言葉で、消費者のイメージと生産者のリアルが乖離していては搾取的なのではないかという考えを打ち明けます。

「でも、彼らが本当にハッピーなのかはわからないまま実際にスペシャルティコーヒーとして売っていても、なんかその良いイメージだけを使ってモノだけ売るっていう、なんかそれもそれである意味搾取的な構造だなとも思ったりするんですよ」

「スペシャルティコーヒーのサステナブルなイメージのおかげで僕らはコーヒーを売るという仕事が成立してる部分があるって思うからこそ、もっとそれに時間を伴わせたい。ちゃんと伝えたいと思っています」と話しました。

「彼らが続いていくためのコーヒーになり得るものを扱うからこそ、本当に僕らは美味いコーヒーを扱う意味があるってことを実感したいし、それを価値にしてコーヒーをやっていきたい」と意気込みました。

ネット上では、「川野さんのおっしゃる八百屋さん論に大変共感しました!」といった声だけでなく、「生豆の値段は上がってるはずなので農家にとっても利益になってるはずだと思っていましたが、そうではない場合もある事に気付かされました」と学び得たというコメントが目立ちました。

加えて、「生産者さんがハッピーかどうか、その通りだと思います」としつつも「一方で、消費者側からすると年々値段が上がっていく状況ではいつか買えなくなるのではという心配もなくはないです、、、」という消費者側の事情に言及する視聴者の意見も見られています。

私達も「スペシャルティコーヒー」という言葉にポジティブなイメージを抱いてしまいますが、実際にそれを構成する要素の「サステナビリティ」が実現できていないという考えが非常に興味深い動画でした。

この問題は、我々消費者にとっても「何を基準に評価するか」といった部分を見つめ直すきっかけになるかもしれません。

【番組情報】
川野優馬のコーヒーチャンネル
https://www.youtube.com/watch?v=rTe4EV8FJuk

(文:横浜あゆむ/編:おとなカワイイwebマガジンCOCONUTS編集部)

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